デザインとビジネスを繋げる「デザイン思考」~観察と共感からイノベーションへ~

 21世紀のビジネスに必要なのは、創造的問題解決によるイノベーションとか言われるようになって、従来型の単なるモノの製造・販売からオープンイノベーションによる新しい事業の枠組みも広がってまいりました。エンジニア的な発想からの製品・事業戦略の限界も感じられ、デザイナーの発想、その考え方をビジネスに取り入れて新しいものを生み出していこうと「デザイン思考(Design Thinking)」という考えが数年前から注目されるようになってきました。本稿ではその流れと今後の方向性について一考したいと思います。

■「デザイン思考」の歴史
1960年代、コンピュータープログラムの開発の動きの中でデザインの「科学化」ということが着目され、20世紀後半からデザインを科学における思考方法として捉える見方が広がってきました。21世紀に入ってビジネス書に取り上げられるようになり、「デザイン思考」に対する関心が非常に高まりました。
デザインファームIDEO(アイディオ)の創業者であったDavid Kellyとその後を継いだTim Blownによってビジネスにも適用され広められていきました。2005年David Kellyがスタンフォード大学にd.schoolを設立し、工学系の学生向けに「デザイン思考」を教えはじめ、その後イリノイ工科大学、ノースウェスタン大学などが続き、現在では世界のMBAトップスクールが「デザイン思考」を教えるようになってきました。

■なぜいま「デザイン思考」か
思考法というとロジカルシンキング、クリティカルシンキングなど左脳による論理思考が有名ですが、デザイナーの思考スタイルは左脳と右脳の両方を活用したハイブリッドな思考です。「デザイン思考」は優秀なデザイナーたちの思考法をベースにしてシステム化された、社会をよりよくするためのイノベーション技法。既存の延長ではなく新しい問題を発見しゼロベースから発想するのに向いています。今はなにが問題なのかを考え、解決策を探す方向にデザイナーの仕事が広がってきました。

日本でもデザイン思考の手法を採用する企業が増え、社内の各部門だけでなく顧客やパートナー企業も含めて様々な人達が集まり、課題の解決を図るための「共創の場」が生み出されています。ワークショップ形式で自由に議論して新しい発想に繋げ、新規開発やサービスに結びつけようとする動きです。

■「デザイン思考」の手法
デザイナーの思考法を普遍化するために考えられた、「デザイン思考」の手法をプロセス化したものが羅針盤としていくつかあります。ここではスタンフォード大学d-schoolの提供するモデルをとりあげます。

STEP1:共感Empathize 「意味あるイノベーションを起こすには、ユーザーを理解し、彼らの生活に関心を持つ必要がある」
人々の気持ちに共感することで、彼らが本当に求めているものは何か明らかにしていきます。
STEP2:問題定義Define 「正しい問題設定こそが、正しい解決策を生み出す唯一の方法」
人々の欲求が満たされていない現状を明らかにし、どのような状態を目指すべきかを定めます。
STEP3:創造Ideate 「正しいアイデアを見つけるためだけではなく、可能性を最大限に広げるために行う」
理想の状態にたどり着くことを支援するアイデアを生み出します。
STEP4:プロトタイプPrototype 「考えるために作り、学ぶために試す」
生み出したアイデアを実際に形にすることで、うまくいきそうな部分を確認したり、アイデアを得るきっかけにします。
Step5:検証Test 「テストは、自分の解決策とユーザーについて学ぶための機会」
本当に目的を達成できるのかどうか、ユーザーの声をもとにアイデアを検証します。
(※詳しくは(一社)デザイン思考研究会より 無料教材としてダウンロード可能です。)

■「デザイン思考」の可能性
 論理と言語をつかさどる左脳だけで深く脚本づけられた人は、高度な創造力がなければ解決できない問題にぶつかったとき、自分の思考スタイルの物足りなさを痛感することでしょう。直感的・創造的・視覚的な右脳、論理的・言語的な左脳、この両方を使いこなせば、脳全体をフルに働かせることができます。これからは均質な個人を足し合わせた組織力ではなく、より個人の力が流れを左右する時代になってきます。均質なスキルは、AIやアルバイト、海外の労働者に取って代わられるような時代がもうそこまで来ています。21世紀のビジネスに必要なのは創造的問題解決によるイノベーション。デザイナーのように課題を独自の視点で発見し、創造的に解決する「デザイン思考」の実践が、デザインとビジネスを繋げ、デザイナーでない普通のビジネスパーソンにも大きな力となるでしょう。

(参考文献)
『クリエイティブ・マインドセット』トム・ケリー&デイヴィッド・ケリー 著 千葉敏夫 訳
『21世紀のビジネスにデザイン思考が必要な理由』佐宗邦威 著
『デザイン思考5つのステップ』スタンフォードd.scool 『デザイン思考のポケットガイド』柏野尊徳 著
一般社団法人デザイン思考研究会https://designthinking.or.jp/ 
他、デザイン思考 Wikipedia

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